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静岡地方裁判所 平成5年(わ)141号 判決

本店所在地

静岡県沼津市神田町七番二五号

安田興産株式会社

(右代表者代表取締役 李光義)

国籍

朝鮮

住居

静岡県沼津市神田町七番二五号

無職(元会社役員)

安田こと 姜信子

一九四三年一一月三〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官匹田信幸並びに弁護人〔私選〕床井茂(主任)及び同福地明人各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人安田興産株式会社を罰金七〇〇〇万円に、被告人姜信子を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人姜信子に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人安田興産株式会社(後記犯行当時の代表取締役は安田こと権金雄)は、静岡県沼津市神田町七番二五号に本店を置き、娯楽場(パチンコ店)の経営等を主たる目的とする資本金一〇〇万円の株式会社であり、被告人姜信子は、被告人会社の取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人姜信子は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ

第一  昭和六三年四月二一日から平成元年四月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億四五二〇万二八〇三円あったにもかかわらず、平成元年六月二〇日、静岡県沼津市米山町三番三〇号所在の所轄沼津税務署において、同税務署長に対し、所得金額及び法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億一二五万五〇〇円を免れた

第二  平成元年四月二一日から平成二年四月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億三〇八六万六四五円あったにもかかわらず、平成二年六月二〇日、前記沼津税務署において、同税務署長に対し、所得金額及び法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九〇六六万三五〇〇円を免れた

第三  平成二年四月二一日から平成三年四月二〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が九一二六万八九六二円あったにもかかわらず、平成三年六月二〇日、前記沼津税務署において、同税務署長に対し、所得金額及び法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三二二一万九七〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)(必要に応じて証拠の末尾に証拠等関係カードの番号を適宜付記する)

判示事実全部につき

一  被告人会社代表取締役権金雄の当公判廷における供述

一  第二回公判期日における被告人姜信子の公判廷における供述

一  第三回公判期日における被告人姜信子の公判廷における供述(被告人姜信子につき)

一  証人安田こと権金雄の当公判廷における供述(被告人姜信子につき)

一  第三回公判調書中の被告人姜信子及び証人安田こと権金雄の各供述部分(被告人会社につき)

一  被告人姜信子の検察官に対する供述調書二通(乙1及び2)

一  被告人姜信子の大蔵事務官に対する質問てん末書一五通(乙3ないし17)

一  安田こと権金雄の検察官に対する供述調書二通(乙19及び20)

一  安田こと権金雄の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通(乙22ないし31)

一  安田こと権愛純の検察官に対する供述調書(甲23)

一  呉本こと呉正明(甲19)、朴敬秀(三通)(甲20ないし22)安田こと権愛純(五通)(甲24ないし28)及び佐渡功(甲29)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五通(甲5、6、8ないし10)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(甲32)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)並びに証明書二通(甲11及び14)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)並びに証明書二通(甲12及び15)

判示第三の事実につき

一  被告人姜信子作成の上申書(乙18)

一  安田こと権愛純作成の上申書(甲31)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲4)、査察官調査書(甲7)並びに証明書二通(甲13及び16)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人姜信子については所定刑中懲役刑を選択し、以上はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金七〇〇〇万円に、被告人姜信子については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において懲役二年に、それぞれ処し、被告人姜信子に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、静岡県内にパチンコ遊技場六店舗を経営する被告人安田興産株式会社の取締役をしていた被告人姜信子が、被告人会社の運営資金や経営上必要と考えて購入した不動産について支払うこととなった裏金、個人として買い求めた貴金属の購入資金にあてる等の目的で被告人会社の経営する右六店舗のうちの三島店において、連日のように売上現金の一部を抜き取り、除外後の金額を売上台帳に記載するという方法で、三年間に合計二億二四一三万三七〇〇円という高額の税を免れたという事案であって、動機には酌量の余地はまったくないうえ、そのほ脱額が右のように高額であり、ほ脱率も一〇〇パーセントであること等に照らすと、本件犯行は、この種事案のなかでも悪質かつ重大である。

この種脱税犯罪は、源泉徴収等でほぼ一〇〇パーセントの納税義務を果たしている給与所得者や、正直に納税申告を行っている誠実な納税者をして税負担に対する不公平感を醸成させ、ひいては、納税申告制度をも危うくするものであって、この点をも併せ考えると、被告人らの刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人会社は、本件発覚後の平成五年二月に各期の所得について修正申告をし、本税の一部(一億五〇〇〇万円)を納付したほか、本税の残金約一億四〇〇〇万円については被告人会社振出の約束手形(平成五年六月三〇日から同年一〇月三〇日まで毎月末日期日の額面一〇〇万円のもの五通及び同年一一月三〇日期日の額面一億三九四八万三〇〇円のもの一通)で納付預託をしているところ、被告人会社の当時の代表取締役であった権金雄は、右手形の決済資金については手当済みであり、また、重加算税・延滞税(約五億円の見込み)については、後日国税局と協議のうえ割賦の方法で納税する予定である旨供述していること、本件犯行当時被告人会社の代表取締役であった権金雄と取締役であった被告人姜信子は、本件発覚後公判段階に至って取締役を辞任し、同人らが脱税した金員で取得したゴルフ会員権や貴金属を納税資金の一部に充てるため業者に売却を依頼していること等の諸事情を考慮して被告人らについて主文掲記の刑を定め、被告人姜信子についてはその刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人安田興産株式会社につき罰金七〇〇〇万円、被告人姜信子につき懲役二年)

(裁判長裁判官 鈴木勝利 裁判官 伊東一廣)

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